Chapter01
ゼロからのスタート
新しく工場を建設する話が持ち上がったのは2018年2月のことだった。背景にあったのは、将来を見据えた生産体制の増強、そして超多品種少量生産と生産体制のデジタル化への本格的な取り組みだ。社内の関係各所で話が揉まれ、同年12月にプロジェクトを主導するSFJ(スマートファクトリー実証室)が発足する。新工場の建設に向けて建築業者と打ち合わせを重ね、規模や構造に関するさまざまなパターンを模索してきた榊原史郎は語る。「工場という箱を作るだけでは、費用を掛けて生産スペースを拡張しただけにしかすぎません。どうすれば付加価値のあるモノづくりにつなげられるのかを常に考えていました」
SFJが中心となって新工場の建設と生産体制の刷新に向けて試行錯誤を続けていた2018年12月、プロジェクトのキーマンとなる桝田典宏が、海外赴任先のアメリカから帰国してSFJの室長に着任した。
「当時はメンバーの誰もが新工場が果たすべき役割を理解しつつも、明確なビジョンを描けず、手探りでなんとか形にしようと必死でした。もちろん、工場を立ち上げたことのある経験者もいないので、まさにゼロからのスタートでした」(桝田)
桝田の加入はプロジェクトの進捗を加速させた。関係者へ積極的に声を掛け、周囲を巻き込んでいく桝田の情熱は、プロジェクトに携わるメンバーたちにも伝播していった。「さまざまな部署を経験されてきた桝田さんの鋭い意見や仕事に掛ける熱意に応えようと、メンバーの誰もがスピード感を持って取り組めたと思います」(榊原)
Chapter02
魅せる工場で0から1を創る
部署名に"スマートファクトリー"をうたっているからには、従来の生産工場とは異なる要素を織り込み、他の工具メーカーと差別化を図っていく必要がある。桝田と榊原の考えは一致していた。「工場を作って機械を移管しただけでは、新しいものは何も生まれません。そこでこだわったのが、限られた予算の中で"魅せる"工場を作ることでした。工場見学に来たお客様が自社に帰ってから話題にしてもらえるような工場にしたい。工場見学を通してOSGから工具を買いたくなる工場にしたいという熱い想いがありました」(桝田)
そこからの2人の行動は早かった。新棟が完成するとプロジェクトメンバーをはじめとする社員の意見を聞き出し、"魅せる"仕掛けづくりに取り組んでいった。
お客様を魅了してOSGが選ばれるためには、製造業の永遠のテーマであるQCD(Quality:品質、Cost:コスト、Delivery:納期)の向上も欠かせない。「"お客様に約束した納期で確実にお届けするモノづくり"を実現するためには、"現場力を後押しするデジタル化"が必要不可欠だと考えました」(桝田)
桝田たちは、生産体制の刷新プロジェクト「Zero-One SYM2S」を立ち上げると、デジタル生産のアイデアをゼロから考え、具現化に向けて力を注いでいった。現在も市場密着型の多品種少量生産に対応すべく、日々あくなき挑戦を続けているところだ。
そして、NEO新城工場でひときわ目を引きつけられるのは、IT企業顔負けのフリーアドレスオフィスとオシャレなカフェテリアだ。生産工場らしくない両フロアは、OSGの積極的な挑戦姿勢を象徴する場所となっている。どちらも全く新しい発想が生まれる(0から1が生まれる)原点となることを期待して、「Zero-One Office」「Zero-One Cafeteria」と名付けられた。
Chapter03
社員の声を反映したオフィス運用
「Zero-One Office」の管理・運用については、当時入社6年目の西郷侑志が任に当たった。社員が個々の席を持つことなく、働く席を自由に選択できるフリーアドレスオフィスを目にしたことがなかった西郷は、インターネットで情報を集めることから始めた。「運用する側・利用する側もゼロからのスタートです。ある程度のルールを運用前に決めておきましたが、いざ運用が始まるとルールに抜け漏れがあることが分かりました。」(西郷)
そこで西郷はアンケートの実施や意見BOXを設け、社員から意見を集めて積極的に運用ルールへ取り込んでいった。社員によっては20年、30年続けてきたやり方を変えることになる。全員の理解を得るまでに時間を要したが、世代を超えた円滑なコミュニケーションが双方の溝を埋めていった。「もともと世代に関係なく、意見を言い合える風通しの良い職場です。
フリーアドレスオフィスになったことで、仕事で関わりの無かった人と人との交流が生まれ、所属部署の壁を越えた横のつながりも広がっています」(西郷)
西郷はデジタル生産ツールの導入にも携わっている。このデジタル生産ツールは、これまで人が考えていた製品の加工手順を機械が自動更新し、出力した用紙ではなくモニターで手順を現場に示すシステムだ。現在は導入途中の検証段階にあるが、他部署の協力もあって順調に進んでいる。「西郷さんの頑張りもありますが、社員の皆さんが他人事として捉えず、目的に向かって最後までやり切ろうと協力してくださっているからです」(榊原)
Chapter04
稼働状況の見える化がもたらしたもの
生産体制の刷新にあたっては、先に挙げたデジタル生産ツールを導入する以前に、そのベースとなるネットワークインフラの構築やOA機器の選定・購入・設定が欠かせない。そして何より、スマートファクトリー実現の最大の命題は、NEO新城工場に入るすべての機械の稼働状況を視える化することにある。それを誰かが担わなければならない。声が掛かったのは、第2製造部技術課1係 アプリケーション開発チームにいた村田和洋だった。「30年に1度あるかないかの大きなプロジェクトだったので、不安もありましたが、自分の実力が試せる機会が来たと考え、前向きに楽しみたいと思いました」(村田)
機械の手配が整うと村田は電気図面を片手に、仕様の異なる機械1台1台と向き合いながら根気強く設定作業を続けていった。また同時に、技術課や生産管理課にヒアリングを実施して、視える化の落としどころを探った。
そして、生産機械の稼働状況の視える化が実現する。「最初こそ生産現場から監視されているようで嫌だといった声もありましたが、結果的に生産に携わる社員の稼働に対する意識が高まったと思います。一人ひとりの社員が稼働の滞っている原因を追究し、故障個所があれば、以前に比べてすぐ修繕依頼を出してくれるようにもなりました」(村田)
稼働状況の視える化によって稼働率が上がり、一定の品質の製品を決められた納期に納められるのか確証が持てるようになったことで、今まで以上にお客様からの信頼獲得につながっている。名だたる企業でもなかなか踏み切れずにいるデジタル化に着手した意義は大きい。
Chapter05
NEO新城工場をOSGのスタンダードに
すべてがゼロからスタートした「NEO新城工場」は、超硬ドリル、超硬タップ、ハイスドリル、ハイスエンドミルの生産拠点として、月当たり5,400種類、7,700ロットの工具を作る超多品種少量生産を可能にした。それでも生産体制の刷新は現在進行形だ。プロジェクトに携わったメンバーの誰もがこれで終わりではないと口を揃える。「現時点では最新でも、技術は日々進歩し続けていくので、NEO新城工場は常に新しい取り組みをしていかなければなりません。改善点もまだまだあります」(榊原)
NEO新城工場の今後のビジョンについて桝田は次のように話す。「0から1を生み出す使命を常に背負っている工場です。当社は海外にも生産拠点があるので、グローバル生産体制のマザー工場として、革新的な取り組みを発信し続けていきたいですね」
2022年度には、NEO新城工場でのデジタル生産の取り組みを他工場へ水平展開していく予定となっている。「達成感を原動力にスピード感を持って行動し、時代とともに変わっていかなければ、世界を相手に戦っていけないと思っています。プロジェクトはまだ道半ばといったところですが、ここまで来れたのにはプロジェクトメンバーはもとより、社員の皆さんが変化に順応し、ついてきてくれたおかげです」(桝田)
立場や年齢に関係なく意見を言い合える風通しの良い社風と、走りながら考えて結果に結びつけていくOSGらしさが、第2、第3のNEO新城工場を生み出す日は近い。